時代と共に大きく変化した韓国企業の新入社員教育

企業ごとに特色の見られる新入社員教育。日本では、主に新入社員研修で企業理念やビジョンを理解し、ビジネスマナーやビジネススキルなど業務上必要な知識を学びます。では韓国企業で行われている新入社員教育はどうでしょうか? 調べていくと特徴のある研修内容やオンボーディング制度などが時代とともに変化しているのがわかってきました。

財閥企業の厳しい新入社員研修

韓国において、大企業の新入社員研修はおおよそ約1〜2週間の教育合宿、その後系列会社へ事業及び担当職務で必要とされる実務技術研修と現場経験を積む教育プログラム研修で構成されているそうです。さらに財閥企業と呼ばれる超大手企業は、新入社員に向けた厳しい研修を行っていたことが知られています。2010年代までは厳しい研修に批判も多くあったようです。例えば、ある財閥企業では、4週間もある研修期間の最終日程として3泊4日で148kmを徒歩で移動する長距離行軍が行われたそうです。(日本に置き換えると東京から富士山あたりまでの距離になります!)またある企業は、グローバル企業の一員としての自負心と国を代表するという心構えを持つよう歴史意識教育に重点を置いており、新人社員研修で登山を実施しました。朝晩の時間帯や休日なども関係ない教育プログラムが実施されていたのは、厳しく長い合宿研修を通じて精神力を強めることが目的とされていました。

変わっていく研修

上段のような、主に韓国財閥系などの大企業では軍隊のような厳しい新入社員研修が行われていた時代があり、ネットでも様々な議論が行われました。しかし、新人教育の効果に対する疑問が定義され、今では変化の風が吹いているようです。

現在では、新入社員の合宿研修を1日8時間、週40時間に合わせて教育プログラムを変更している企業が多いそう。これは、韓国の労働基準法が改正されたことも関係していると思われます。

上の図にあるのは2017年時点でのOECD34カ国における1年間の労働時間ですが、韓国はメキシコについでワースト2位。このような状況を鑑みて2018年2月に改正勤労基準法が成立し、同年7月1日から公共機関と従業員数300人以上の事業所を対象に「週52時間勤務制」が施行されました。この法律は長時間労働の問題を解消することで労働者のワーク・ライフ・バランスを実現させること、そして既存労働者の労働時間減少により新しい雇用を創出することを目的に制定され、新入社員研修にも影響を与えています。またコロナ以降、新入社員研修課程がオンラインに変わる企業もあるなど、時代の流れに応じて研修のスタイルも変化してきているようです。

実際に現在行われている新入社員研修を見てみると、内容や形態が変化していることが分かります。

例えば、2021年ごろはコロナの影響でこれまでのような新入社員合宿ができなかったこともあり、オンライン研修に切り替わりました。ある大手企業では、メタバース(オンライン仮想空間プラットフォーム)上での研修が行われました。大講堂と職務教育受講室、講義室、休憩室、食堂などで構成された仮想教育センターにて、現実に似た教育や疎通環境を造成したそうです。以前は厳しい新人研修合宿が行われていた企業でも、合宿をする際にオンラインとオフラインを組み合わせ、オンラインを活用しています。最近だと、オンラインでは座学でビジネスマナーや会社の経営哲学を学び、オフラインではチームごとにアイデア構想、ポスター制作、中間発表などを進行し、最後の日には映像物を制作してチーム間での予選戦プロジェクトを行うなど、時代に合わせた内容に様変わりしてきています。

韓国企業のオンボーディング制度

厳しい社員研修の流れが変わっていく様子を見せている中、今、韓国の多くの企業で、新入社員研修とは別に、新入社員が組織に素早く適応できるようにオンボーディングプログラムの運営に注目が集まっているようです。これは業務だけでなく、企業の文化や価値を知らせるプログラムでもあるので、企業によって内容は様々です。ここでは、いくつかの韓国企業のオンボーディングプログラムについて見ていきます。

ハイブ

防弾少年団(BTS)が所属する事務所であるハイブは、6ヶ月間の特色あるプログラムを運営しています。入社した社員は、入社直後にミッションを受け、上司や同僚からのフィードバックを受けながらハイブでどのように働いていくのかを経験します。ミッション遂行中に感じた感情をリーダーと共有し、どうやって改善点を直していけるか意見を交わし、オンボーディングは終了します。

NAVER

NAVERではコロナ以降、自社のメタバースプラットフォームである「ゼペット」を通じて全てのオンボーディング過程を進めています。新入社員の主な年齢層であるZ世代を狙った様々なプログラムで構成され、プラットフォーム上でアバターを使ってのアバタースキーキャンプをするなど、非常に特色のあるプログラムです。非対面ながら、効率的にコミュニケーションが取れるとして、新入社員からの反応も良かったようです。

トス

トスには、「カルチャーエヴァンジェリスト」という特別な職種が存在します。この職種は、企業の文化を作っていくというもので、新入社員のためのオンボーディングもここで担当します。トスのオンボーディングは約3か月間、業務、企業の目標、戦略、文化などについて教育し、分からないことがあればすぐに聞けるような環境になっています。それだけでなく、代表とゆっくり話す時間を設けたり、同僚とのマッチングシステムを通じてトスに安定的に適応できるようにサポートしています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。時代と共に、仕事やワークライフバランスへの価値観が変容し、それに合わせて韓国の新入社員研修やオンボーディングプログラムも変化しているようです。韓国人材を採用する際にぜひ参考にしてみてください。

https://www.lg.co.kr/media/release/23518

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73525?site=nli