コロナウイルスの大流行以降、世界中の企業でリモート勤務の需要が一気に高まりました。ただ、国によってコロナ収束後のリモートワーク普及率には差が出てきているようです。韓国では日本と同じように出社が増えているのか、それともIT先進国としてリモートワークを維持しているのでしょうか。MZ世代のリモートワークへの本音なども合わせて紹介していきます。
韓国でのリモートワークの現状
ハンギョレ新聞によると、2023年4〜5月、スタンフォード大学、メキシコ技術自治大学(ITAM)、ドイツ民間経済研究所(Ifo)が 34カ国の正社員4万2千人余りを対象にリモートワーク日数を調査した結果、韓国の会社員の月平均リモート日数が1.6日で最も短かったそうです。地域によって差があり、アジアと英米圏でのリモートワーク平均日数は以下の通りでした。
【アジア】
韓国が1.6日、日本が平均2日、台湾が2.8日、中国が3.2日、シンガポールが3.6日などを記録し、月平均2~3日にとどまりました。
【米国や英国、カナダなど英米圏】
カナダは6.8日で、リモートワーク日数が調査した中で最も多くなりました。英国は6日、米国は5.6日、オーストラリアは5.2日などを記録しました。欧州ではドイツ、フィンランド、オランダの会社員のリモートワーク日数が4日で最も多く、南米ではチリが月平均4日間リモートワークを行っていました。
この調査を行った研究者によれば、人口密度の高いアジア諸国では狭いマンションで複数の家族構成員と一緒に生活する場合が多く、業務の生産性を高めるのに困難をきたすため、職場に復帰する傾向がある、とのことでした。しかし、他のアジア諸国と比べ平均1.6日とさらに少ない日数に留まったのには、何か他に理由があるのでしょうか?次の章でその理由を見ていきたいと思います。
韓国のリモートワーク普及が進まない背景
韓国は、スマートフォンの普及率も世界最高レベルの韓国はIT先進国です。なぜその韓国でリモートワークの普及が他国に比べ進んでいないのでしょうか。コロナ禍以前の状況からコロナ禍後まで、どのような変遷があったのかを見ていきます。
【コロナ禍以前】
韓国統計庁の「経済活動人口調査 労働形態別の付加調査」によると、2019年に柔軟勤務制(時差通勤制や柔軟な勤務体制、選択的勤務時間制、在宅勤務・テレワーク制など)を経験した労働者は221万5000人であったが、このうち在宅勤務・テレワーク制の経験者は4.3%に過ぎなかったそうです。
理由:ある記事によれば、これは「対面してこそ仕事だ」という韓国式文化が強かったからだといいます。向かい合って会議、残業、会食で関係性を深めながら仕事をするという文化に慣れた中高年世代の組織文化が根強く、組織文化の変革にあたっては反発が多かったそうです。しかし、コロナが到来したことにより改革が起きました。
【コロナ禍〜改革〜】
コロナが到来した事により、リモートワークを推進せざるを得ない状況になり、政府もそれを後押ししました。在宅勤務を中心としたリモートワークに取り組みやすくなるよう、2020年9月に在宅勤務総合マニュアルを制定しました。人事労務管理、通信インフラ整備などのモデルケースを例示し、助成金の案内を並行して行いました。その結果、2020年3月以前のリモートワーク経験割合が4.5%だったのが、2020年4月以降のリモートワーク経験割合は74.0%まで上昇しました。(出典:韓国雇用労働部 在宅勤務総合マニュアル)
【現在】
コロナ禍で上昇したリモートワーク率ですが、2023年8月時点でリモートワークをする人は68万3,000人と前年比で28.6%減少しました。韓国経済団体の韓国経営者総協会が9月に実施した調査によると、売上高ベースで上位50社の大企業のうち38.7%が「コロナ禍で(在宅を)実施した時期があったが、現在は行っていない」と回答したそうです。一方「在宅勤務を行っている」と回答したのは58.1%で、売上高で上位100社を対象に調査した21年の91.5%、22年の72.7%に比べて大幅に減少したようです。
理由:業務効率の悪化やコミュニケーション不足を懸念する企業が、在宅勤務制の廃止や縮小を進めているためだそうです。また、世界的な金融引き締めや物価高などで経営環境が悪化したことで出社を促す企業が目立つようです。
一度コロナ禍で上昇したリモートワーク率が現在減少傾向のようですが、一方で従業員は在宅を希望する人が増加しているようです。就職活動を行う世代も含めた1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代(Z世代)や、1981年〜1990年代なかばごろまでに生まれたミレニアム世代(M世代)は、リモートワークについてどのように考えているのでしょうか。
MZ世代のホンネ
2023年、デロイトが「デロイト2023グローバルGen Z &ミレニアル調査」を行いました。この調査は、2022年11月~2023年3月に全世界44カ国・MZ世代2万2,856人・Z世代1万4,483人/ミレニアル世代8,373人を対象に行われた調査です。この調査では、社会課題に対する意識、企業への期待や自身の就業観に加え、働き方の柔軟性を高める企業の施策に対する各世代の温度感や職場におけるメンタルヘルスの状況などについてのアンケートが行われました。この中から、韓国MZ世代のリモートワークへの意識調査を抜粋し、紹介していきます。
◎MZ世代は経済状況の悪化でワークライフバランスが崩れる恐れがあると憂慮した
MZ世代が職場を選択する際に1番先に希望する項目はワークライフバランスで、その次に自己啓発、給与でした。また、リモートおよびハイブリッド勤務をしているZ世代の77%、ミレニアル世代の75%は、現在の所属会社が再びフルタイム出勤することを強要する場合、転職を考慮すると回答しました。
◎MZ世代のリモート、およびハイブリッド勤務を求める比率
下の表をみると、M世代Z世代ともにハイブリッド勤務や勤務場所を自由に選べることを好むという結果が分かりました。一方で、完全リモート勤務を望むMZ世代は20%以下で、自由に勤務場所や時間を選べることを好むものの、フルリモートを望むMZ世代はそこまで多くなく、同僚などとのコミュニケーションも重要視していることがわかりました。
※出典ーデロイト2023グローバルGen Z &ミレニアル調査
◎MZ世代が感じるリモート勤務のメリット・デメリット
メリット
ー家族、友人と過ごす時間をさらに確保することができる。また余暇活動もより多く楽しむことができ、ワークライフバランスの水準が高くなる。特に「働く母親」にはこの部分が最も大きな長所
ー通勤費用、衣服の購入/管理費用を節約できる。
ーオフィス環境に影響を受けず、生産性が高くなる。
ーMZ世代の半分以上が(Z世代:54%、ミレニアル世代:59%)リモートおよびハイブリッド勤務が精神健康に肯定的だと答えた。
デメリット
ー限定的に同僚に会うため、キャリア開発が制限的になりかねない。
ー同僚たちとのつながりが低くなる。
ー所属会社のリーダーたちと交流を通じたメンターシップ、スポンサーシップの機会が減る。
ー孤立感を感じるようになる
まとめ
いかがでしたでしょうか。IT先進国である韓国が、リモートワークの普及率という観点で見ると世界でも低い割合なのは意外だったのではないでしょうか。ただ、記事をみても分かるように、MZ世代はハイブリッド勤務や勤務場所を自由に選べることを好むことから、そのような希望を汲み取った制度をとる企業が今後さらに増えていくかもしれません。今後の動向にも注目していきたいと思います。
(参考文献)
韓国のリモートワーク、月平均1.6日で「世界最下位」…1位は?
韓国リモート(非対面)ビジネス戦国時代~後編~ YMFG アジアニュース
「残業、酒席は当たり前」の韓国でオジサン社会の崩壊が始まった コロナの襲来で生まれたチャンス (4ページ目) | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)