韓国のブラインド採用事情

多様性を重視する社会の流れに応じて、採用選考過程においても性別や学歴などの個人情報を伏せた上で、学生本人の素養にフォーカスした「ブラインド採用」への関心が高まっています。韓国ではすでに導入されて長い年月が経っていますが、取り扱いが難しいことも指摘されているブラインド採用について調べてみました。

ブラインド採用とは

ブラインド採用とは、採用過程において職務とは関係のない個人情報(写真、名前、性別、年齢、学歴、家族構成、出身地など)を排除し、キャリアと能力だけで候補者を評価する方法です。1970年代アメリカにてオーケストラ団員募集の際に、採用官が応募者を「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」なく、応募者の実力を正確に試すために採用官と応募者を布で仕切ったのが始まりとされています。ブラインド採用の目的としては、上記のように採用官の個人の主観に結果が影響されることを防ぐという公正性の担保、そしてもう一つが少子高齢化や高度情報化に対応するため多様な人材を登用するという、ダイバーシティの推進です。取り組みの例として、面接官はその場でランダムな組に振り分けられたり、応募者に身内がいないか身元照会が行われたりすることがあります。また応募者は名札に志望する職種のみを記したり、全員同じ服装に着替えたりすることもあるようです。

メリットとデメリット

一見して理想的な制度にも思われますが、どんなメリット・デメリットが存在するのでしょうか。採用する組織側と応募者側の立場別に紹介します。

🔳メリット

🔳デメリット

韓国のブラインド採用事情

ブラインド採用がどういった制度なのか見てきましたが、ここから実際、韓国での導入の様子を紹介します。

韓国で導入された要因としては、韓国社会が抱える課題という背景があるようです。ひとつは、一部の名門大学を卒業していなければ大手企業への就職が難しいという高度の学歴社会。そして、履歴書の顔写真や容姿が結果を大きく左右する状況、即戦力重視の採用要件の中で過熱化している「スペック」文化です。

こういった問題に対処するため、ブラインド採用がまず政府機関で導入され、2017年から本格的に運用が開始されました。2019年に公共団体や公的機関では導入が義務化され、民間でも取り入れられ始めています。違反した場合は500万ウォン以下の罰金が課されることも規定されています。しかしながら2022年に公共研究機関の採用で他国籍の研究者が間違って最終選考を通過してしまった事例が発覚し、公共研究機関でのブラインド採用を全面廃止すると明らかにしました。韓国では継続してブラインド採用の是非について議論され続けているようです。

2021年11月の朝鮮日報に掲載された、韓国雇用情報院が雇用労働部とともに行った「企業が職員を選ぶとき、どのような「スペック」を重要にするか?」というアンケート調査結果を見ると、どの大学を出たのか、語学スコアが高いのか、コンテストのキャリアがあるのか​​などという「スペック」はあまり関係がなかったという結果が出ています。参考までに最も高かったのが専攻と職務の関連性(47.3%)、続いて職務関連勤務経験(16.2%)、高卒・大卒・大学院卒など最終学歴(12.3%)、職務関連インターン経験(7.6%)などの順でした。スペックを意味する最終学校名(4.9%)、単位(1.6%)、語学成績(1%)などは重要度が低かったようです。また新入社員の「面接」でもそれは同様で、職務関連経験(37.9%)、靭性・礼儀・礼節など態度(23.7%)、業務に対する理解度(20.3%)、企業に対する理解及び関心(9.5%)、コミュニケーション能力(8%)などの順だったようです。

ブラインド採用に対する韓国人学生の意識

では、韓国の就活生の意見はどのようなものでしょうか。2017年にJOB KOREAが就活生997人を対象に行ったアンケート調査では、全体では82%が「ブラインド採用が導入されたら賛成する」と回答したことが明らかになりました。賛成する理由としては「不必要な個人情報など、既存の履歴書項目に問題点が多いと思うから」が最も多く、次に「スペックが必ずしも実務への力量に繋がるとは思わないから」と続きました。

しかし、同時期に中央日報が行った調査で「反対する」を選択した人を学校別に区分した際、専門学校7%、地方私立大学9%、首都圏にある大学10%、地方国立大学20%と増えていき、ソウルまたは海外の大学は30%という数値が出ました。そのうちソウル大学の学生は、「学力も努力の結果なので、評価対象から除外するのは不合理だ」と答えました。

従来の就職活動では学歴が非常に重要な要素であり、そのために努力して名門大学に合格した学生は、ブラインド採用によって自分の努力が無視されたと考えることもあるでしょう。逆に一部の名門大学出身ではない学生にとっては、大学名で足切りをされないことでチャンスが増えることになります。そのため、出身大学によっても意見は異なるようです。

またJOBKOREAが2020年度卒業生584人を対象に就職準備の現状と平均スペックに関してアンケート調査を実施した際、「就職を成功させるために一番取り組んだものは何か」という質問に対して、「専攻分野の資格取得」が54.3%で最も多く、「エントリシートの作成」が45.0%が次点となりました。それは、最近のブラインド採用やAI採用の増加に伴い、エントリシートの重要性が以前よりも高まっているからだと考えられるそうです。

まとめ

韓国のブラインド採用事情について調べてきましたが、現状はどうなのか、現地KORECの方にヒアリングしました。「受験戦争はあるし、大学生はTOEIC高得点を目指して努力し、その他資格取得はもちろん留学やインターンも積極的に取り組んでいる方も多い。韓国大手企業に入社している方は優秀な学校の卒業生が多くて、日本よりも学歴・スペック重視だと感じますね」との回答がありました。ブラインド採用を用いた国や企業の思惑と現状にはまだまだ乖離があるかもしれません。

今後も採用トピックを今後も積極的にお届けします。ブラインド採用のような新たな採用手法は今後も増え続けると考えられますが、採用活動の参考にしていただければと思います。

【参考資料】

「ブラインド採用」とは、導入のメリットとデメリットを解説

ブラインド採用とは? 学歴・年齢・性別などを隠して選考 – 『日本の人事部』

大学は4年で卒業しない!過熱した韓国の就職活動の実態

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