韓国人が設立者である世界平和統一家庭連合、旧略称『統一教会』が連日報道されていましたが、韓国で宗教といえばキリスト教。著名人にもキリスト教を公言している人がおり、例えば2008年から2013年に任期を務めた李明博元大統領はプロテスタント長老派の信者です。また、ドラマ『冬のソナタ』で人気を博したペ・ヨンジュンはカトリックの信者で、相手役を演じたチェ・ジウはプロテスタント長老派の信者です。他にもK-POPファンであれば誰もが知っているようなアイドルの中にもキリスト教を信仰している人が多くいます。では、実際どれほどの信者がいて、なぜ普及したのでしょうか。
国民の3分の1がキリスト教徒
韓国のキリスト教の信者数を見てみましょう。韓国統計庁によると、2015年時点でプロテスタントは韓国人の19.7%、カトリックが7.9%と示されており、人口の約3分の1がキリスト教徒です。ちなみに日本のキリスト教の信者数は人口に対してなんと1%。いかに韓国でキリスト教が普及しているかがわかると思います。
他の宗教はどうでしょうか。2005年と昔のデータにはなりますが、首都ソウルだけでみると人口約976万人のうち仏教徒は16.9%、天道教が0.1%、儒教を信じると答えた人も同じく0.1%です。ちなみに天道教とは東学(キリスト教は西学)の流れを受け継いで生まれた朝鮮の新宗教で、儒教を基盤としながらもキリスト教の影響を受けています。
クリスマスが祝日!?世界最大の教会が韓国に!?
信者でなくてもキリスト教の普及を感じる場面があります。まず、クリスマスである12月25日が祝日です。もちろんキリスト教徒は教会で過ごすと思いますが、街はイルミネーションで彩られたり、恋人がデートをしていたりなど、日本と同じような雰囲気だそうです。次に、キリスト教といえば教会。世界的にも信者が多く、強大な教会が韓国には多くあります。例えばソウル中心部を流れる漢江沿いの人気観光地、汝矣島公園に「汝矣島純福音教会」という大きな教会がありますが、なんと信徒数は77万人。これは単独の教会としては世界最大規模です。
韓国に行くと教会が多く、夜には赤いライトに照らされた十字架を目にしたことがあるかもしれません。韓国の友人を遊びに誘ったところ、日曜日は教会に行くからと断られたことが何度かあります。また、韓国ドラマを観ていると家族で教会に行くシーンが描かれていることもあります。このように韓国では日本よりもキリスト教が身近な存在であることがわかるでしょう。
なぜキリスト教が拡大したのか
韓国のキリスト教の起源を見ていきましょう。1392年から1918年まで朝鮮半島は高麗という国でしたが、仏教を国教化していました。また、仏教を排除するために儒教も取り入れられていました。日本は1549年に鹿児島に上陸したフランシスコ・ザビエルによって伝えられたことが起源ですが、韓国は1784年にイ・スンフンが北京で受洗して最初の信者になったことが起源です。日本のように外国人宣教師による布教ではなく、朝鮮人が自主的に摂取したと言われています。
- 伝統的な民間信仰「シャーマニズム」
なぜこれほどまでにキリスト教が拡大したのか、気になりますよね。
様々な説がありますが、まず韓国の伝統的な民間信仰であるムーダン(巫堂)というシャーマニズムが影響しているという説があります。シャーマニズムとはシャーマン(巫女)を仲介して神霊や祖先の霊などと心を通わせること。韓国のプロテスタントは、キリスト教が一般的に忌避するシャーマニズムの神秘主義を取り入れ、これが韓国の風土と合致し、教会の急成長をもたらしたと言われています。特に教会のマンモス化は宣教のおかげというより、キリスト教がシャーマニズム化され、それが韓国のキリスト教を成長させたそうです(崔吉城『キリスト教とシャーマニズム』)。1970年代以降、近代化に伴い、シャーマニズムが迷信であるとして批判の対象となり、表立ってその儀式を行うことが難しくなったため、シャーマニズム儀礼に参加していた年配の女性たちが教会に通い始めたという指摘があります(伊藤亜人『もっと知りたい韓国』)。ただし、韓国シャーマニズムのシャーマンは女性であるため、父系社会で生まれたキリスト教の受容は容易ではないという見方もあります(浅見雅一、安延苑著『韓国とキリスト教』)。
- 儒教の理気二元論がキリスト教と類似
次に、儒教の「理気二元論」がキリスト教の世界観に類似していたと言われています。韓国の儒教研究を専門とする京都大学大学院の小倉紀蔵教授によると、韓国のキリスト教には2つのタイプがあり、一つは理性的な信仰タイプ。抗日運動や民主化運動で重要な部分を担いました。これに対して、シャーマニズムや仏教に影響を受け、魂の救済の側面を強調した信仰タイプ。小倉教授は前者を儒教的な「理」を継承した「理のキリスト教」。後者を感性を前面に打ち出した「気のキリスト教」と呼んでいます。ちなみに先ほど紹介した世界最大の教会「汝矣島純福音教会」は「気のキリスト教」に分類されます(浅見雅一、安延苑著『韓国とキリスト教』)。
- 韓国人特有の感性「恨(ハン)」
韓国の日本研究者、呉善花によると「韓国にキリスト教が普及したのは惨めな状態を喜び、『恨』を楽しむ韓国人の感性にうまく適合したからである」と説明しています。ひどい仕打ちをした相手に憎しみの感情を持ち続ける「恨む」とは異なり、「人生の長い旅路において人間はどうしようもない運命に翻弄され、さいなまれ、苦しむ」が、「いつの日か結ばれた心の結び目を解くことによって解消される」という考えです。この「恨」を解放するものがキリスト教だったといういうわけです(浅見雅一、安延苑著『韓国とキリスト教』)。
- 抗日運動の精神的支柱
韓国(朝鮮半島)は1910年に日本(大日本帝国)によって、1945年まで植民地化されていましたが、民衆を主導してきた独立運動家の中にキリスト教徒が多かったと言われています。日本政府が植民地化の過程でキリスト教を弾圧しましたが、それに抵抗する形でもキリスト教が拡大していきました。また、キリスト教の「選民思想」も抗日運動に影響を与えました。選民思想とは自分たちは神から選ばれたとする考えですが、植民地下の民族的苦難と選民思想がマッチしたとされています。
最後に
戦後、最もキリスト教が拡大したと言われる韓国。日本にはキリスト教やそもそも宗教自体にあまり馴染みがないため、韓国でこれほどまでに拡大していることを知り、驚いた方も多いのではないのでしょうか。韓国と日本は似ているようで実はまだまだ違いがたくさんある国。宗教以外にも両国の違いを比較してみると面白いですね。
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