韓国の若者はなぜ就職難なのか?

コラムでも度々お話ししてきた韓国の若者就職事情。

今回は長年韓国に住んで日韓の友好を見守ってこられた、元電通KOREAの田中さんに韓国の就職難から民族性に至るまで、いろいろなお話を伺いました!

インタビュアー(以下I):本日はよろしくお願いいたします!

田中さん(以下T):お願いいたします。

大手志向の就職

I:早速ですが、ズバリ「韓国の若者はなぜ就職難なのか」について、今も韓国に住んで様々な活動をされている田中さんの視点から教えていただけますか?

T:とても簡単なんですよ。コロナの影響でここ最近の詳しいデータがないのですが、2019年の数字でいくと、大卒者が約30万人いる中で皆が憧れる安定した就職先、つまり大手中堅企業、公務員、公企業の受け皿が9.7万席しかないんです。残り約20万人は溢れてしまうわけです。大企業の就職率は14%、たった14%です。これ、日本で言えば32%くらいです。そういう実態が就職難の一つの要因でもあります。

I:中小零細企業など就職先がないわけではないと思うのですが、やはり大卒者は大手や安定した企業を目指すのですね。

T:それは圧倒的な差があるからね。韓国は売上高の90%以上を大中企業が担っており、給料もそれに比例していて、中小だと大手企業の給料の半分になってしまうデータも出ています。小さい頃から競争社会で生き抜いてきて大学に入ってるので、就職先に妥協できないのが現実ですね。

スペック重視の採用基準

I:卒業してから1年ほどかけて就職先を探す、という話も聞きました。

T:韓国の大学生は日本のように4年で卒業するってのはまずありません。韓国の雇用労働部の統計だと、大学在学年数は男性が平均7年、女性も平均5年です。男性は兵役もあるしね。卒業後の1年間は就職準備期間と見ていて、アメリカに留学したりTOEICなどの点数を上げる勉強をしたり、そのあたりは卒業後すぐ就職しなければ、という雰囲気の日本と違ってフランクだと思います。私も韓国で合弁会社をやっていて採用面接とかするんだけど、男性は新入社員でも30歳前後で女性も27歳くらいだね。

I:KORECでも登録している韓国人材は皆スペックが高いです!

T:韓国の採用はスペック重視なので、高スペックでないと書類審査の段階で落ちて土俵にすら上がれないからね。私は電通のクリエイティブ部門だっただけど、そこでも最初は総務が書類で学校優等生を選別するので全然いい子が上がってこなくて。クリエイティブの能力は学校とは関係ないからむしろ思春期にグレてるくらいでないとダメなんだよって(笑)。銀行などはそれでもいいかもしれないですけどね。

あと女性を面接していると、履歴書の写真と全く違う顔の人と面接したことがあって。韓国では美醜もかなり採用に影響するので、就職のために整形するってことがよくあるみたいだね。

I:いい就職のために整形まで・・!就職の過酷さが伝わります。

やはり少ない採用枠

T:韓国には海外の企業も多く進出しており、もちろんそこの採用もあるにはあるんです。日本だとソウルジャパンクラブというのがあって、380社くらいの日本企業が加盟しています。日本だけで8.2万人程度、ヨーロッパ系は5万人程度、アメリカ系は12万人程度の韓国人がそれらの海外企業で働いています。なんだ海外企業の雇用枠もあるじゃないか、となるんですが、これが実に新陳代謝が悪い(苦笑)。誰も辞めないから年に数名しか採用枠が生まれないんです。韓国企業と比べて福利厚生なども整っているので居心地がいいんでしょうね。

同じく、公務員も離職率が低いです。韓国の公務員は最初9級(キャリア組は5級)からスタートして上を目指しますが、高位公務員と呼ばれる3級になるまで20年以上かかるのでなかなか辞めない。

I:なるほど。上に行くまでにかなり年月を要するんですね。

T:それに比べて、民間企業の離職率は上がります。韓国の統計機関が出している、財閥企業の平均勤続年数は13、4年。あのサムソンでさえ9.5年です。どうしてそんなに短いと思います?

I:激務で実力主義だからですかね・・??

T:うん。競争が激しんだよね。友達を蹴落としてまでの競争社会で生きていて、出世に敗れるとプライドも許さない。だから辞めてしまう、というのもあると思います。大手での経験があれば良い転職もできるしね。

実際の失業率はもっと高い

T:2019年の中央日報の記事のデータで、働く能力があるのに就職する意思がない、就職放棄者が初めて200万人を超え、過去最高とありました。つまり卒業後に就職せず、準備期間として過ごす人たちは就職放棄者に分類され、失業者にカウントされないんです。2021年現在、韓国の失業率は4%未満ですが、実際このような卒業生をカウントすればもっと高い数値になるはずです。

I:数字だけ見てると分からないですね。

T:韓国は結構数値いい加減です。大統領支持率も5%は下駄履かせていると知り合いの大学教授が言ってました(笑)。

ちなみに、韓国の自営業は全体の25%を占めています。アメリカで6%なので、いかに多いかが分かりますね。街にあるチキン屋さんなんかは約8.7万店あると聞いてます。日本のコンビニが5.7万店程度なので、日本とは違う構造がありますよね。

「ケンチャナヨ」の民族性

T:私は日韓文化交流祭りに携わっているんですが、韓国は競争社会に慣れてしまっているせいか、文化に関しても優劣で判断してしまう傾向があります。そこは良くないなと感じますね。韓国人の中には、自国のこうした傾向に嫌気がさして、海外に出てしまう人も多いです。中国やアメリカに各250万人くらい、日本にも81万人ほど人材が流れていると聞きます。

良くも悪くも、「ケンチャナヨ」(=大丈夫)の精神でおおらかなんですよね。韓国は詐欺事件が日本の165倍起きている国なんですが、処罰が軽いですし、銀行なんかも賄賂がすごいです(苦笑)。

I:政府がそもそも裏金とかのイメージです・・。

T:偉くなると腐ってくるんだよね(苦笑)。ですが、韓国人はI Qの高い民族だと思います。電通韓国の駐在員として赴任した1997年から20年以上韓国で過ごしていて、韓国人と日本人は同じモンゴロイドの民族として、似た情緒を持っていると感じます。

I:最後に、日韓交流に関して一言いただければ!

T:韓国の要人とお話しする機会もあるのですが、日本に企業の皆様に韓国の若者をお願いします、というのが韓国の本音だと思います。実際、韓国のI Tは日本よりずっと進んでおり、I T人材も優秀です。また、ソウルにある名門大学だけでなく、地方大学や専門学校も学生も優秀で、そのような人材と日本の企業のマッチングにも取り組んでいきたいと考えています。こういった交流を積み重ねて、日韓の友好に繋げていければいいですね。

I:本日はありがとうございました!

<田中将志さんプロフィール>

神奈川県小田原市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社電通に入社。1997年から日韓合弁会社フェニックスコミュニケーションズの制作本部長としてソウルに赴任し、韓国電通代表理事社長などを務める。電通退社後は、株式会社ドリームボーイ社を設立し、「日韓交流おまつり」のイベント運営を中心に、様々な日韓イベント開催に携わっている。

日本語検定試験(JLCT)韓国代表、日中韓女性経済会議アドバイザー。