韓国旅行をしたことがある方なら、一度は感じたことがある韓国のカフェ文化。近年はさらにおしゃれなカフェが増え、カフェ文化がまさに花開いています。今回はその中でも韓国人の「コーヒー愛」に着目し、コーヒーが国民の生活や社会にどのような影響を与えているのか、筆者が韓国に暮らした経験を交えながら紹介します。
消費量は世界平均の4倍?:韓国のコーヒー市場
405杯――この数字、何を表しているかわかりますか?
正解はずばり、韓国人1人が1年間に飲むコーヒーの量です!(2023年 ユーロモニター調べ)これはなんと、全世界一人当たりの年間コーヒー消費量(105杯)の約4倍に上ります。
さらに、コーヒー大国とも呼ばれる米国(318杯)よりも多く、韓国人のコーヒー消費量がいかに突出しているかがわかります。
特に、過去の調査では2018年の時点で363杯とされており、それから約5年間で年平均2.8%の増加を見せています。
このように、韓国人の「コーヒー愛」が市場を支え、韓国のコーヒー市場は現在も成長を続けています。
韓国のコーヒー愛のルーツを探る!
昔は食後に「スンニュン」
かつて韓国の家庭で食後に飲まれていたのは「숭늉(スンニュン、お焦げ湯)」でした。これは、ご飯を炊いた後の釜の底に残ったお焦げにお湯を注ぎ、軽く沸かして作る伝統的な飲み物です。特に、韓国料理は甘辛く味が濃いため、このスンニュンが食後の口直しとしてちょうどよかったのです。家庭の温かい食後のひとときを象徴する飲み物でした。
しかし、1960~70年代に電気炊飯器が急速に普及するにつれて、お焦げを作る機会が減り、スンニュンも一般の家庭では次第に姿を消していきます。現在でも、伝統的な食堂では食後にスンニュンを出すところがあり、特に年配層にとっては懐かしい味として親しまれています。
コーヒーが「健康的な」飲み物に
その後、韓国にコーヒー文化が本格的に広まったのは、アメリカの影響を受けた時代からです。朝鮮戦争後、駐留米軍がインスタントコーヒーを持ち込み、アメリカ風の「薄いコーヒー」が韓国人に紹介されました。これが、コーヒー文化の第一歩となります。
1980年代から1990年代にかけて、韓国経済が急速に成長すると、海外の文化や食習慣が浸透していきます。その一環として、コーヒーも広く普及しました。この時期、オフィスでは「コーヒーミックス」が当たり前の飲み物となり、韓国人にとってコーヒーがより身近な存在となりました。
さらに、韓国料理の味付けは甘く、辛く、濃いものが多いため、食後にコーヒーを飲むことで口の中をさっぱりさせるというニーズもコーヒーの人気を後押ししました。また、2000年代以降、健康志向が高まり、コーヒーのカフェインが脂肪燃焼効果を持つことが注目され、「健康に良い飲み物」という新たなイメージが定着しました。
カフェ文化と共に進化するコーヒー
2000年代に入ると、韓国では本格的なカフェ文化が花開き、スターバックスをはじめとする世界的なカフェチェーンが続々と進出しました。街中に個性的なカフェが立ち並ぶようになり、若者を中心にカフェでの時間を楽しむ文化が定着します。カフェは単なるコーヒーを飲む場所ではなく、勉強や仕事、友人との交流の場として重要な役割を果たすようになりました。コーヒーを片手にカフェで過ごすことは、現代韓国のライフスタイルの一部となっています。
日本と韓国のコーヒー文化の違い
日本と韓国のコーヒー文化には興味深い違いがあります。
日本では、繊細な抽出技術や季節の風味を楽しむことが重視され、コーヒーの質や味わいにこだわる傾向があります。豆の種類や挽き方、水温など、細かい要素にまでこだわることで、1杯のコーヒーを深く味わう文化が根付いています。カフェでも、静かに落ち着いた雰囲気の中で、コーヒーそのものをじっくり楽しむというスタイルが一般的です。
一方で、韓国ではコーヒーそのものの味だけでなく、カフェという空間が社交の場として重視されています。友人や同僚とカフェで過ごす時間はとても大切で、カフェは仕事や勉強、そしてコミュニケーションの場として活用されることが多いです。多くのカフェがWi-Fiや電源を完備しており、長時間滞在できる環境が整っていることも特徴です。
また、コーヒーの選び方にも違いが見られます。
韓国では「アメリカーノ」が圧倒的に人気で、エスプレッソをお湯で薄めたこの飲み物が、特に若者を中心に愛されています。
興味深いのは、寒い冬でもアイスアメリカーノを好む人が多いことです。その人気から若者言葉として「얼죽아(オルチュガ)」が生まれました。これは「얼어서 죽어도 아이스 아메리카노(凍って死んでもアイスアメリカーノ)」の略で、韓国人がアイスアメリカーノをどれだけ愛しているかが現れている造語です。
一方、日本ではドリップコーヒーが主流で、韓国のアメリカ―ノに比べてやや濃厚な味わいを楽しむことが一般的です。そのため、韓国のアメリカ―ノを初めて飲んだ日本人が「少し薄い」と感じるかもしれません!
コーヒーが支える韓国の日常生活
コーヒーは、単なる飲み物以上の存在として、韓国社会に深く根付いています。筆者が韓国に留学していた4年間でも、コーヒーが人々の生活や文化に与える影響を実感する場面が多々ありました。例えば、大学では朝の1時間目に向かう途中、周辺のテイクアウト専門のコーヒーショップには必ず行列ができていました。学生だけでなく、教授までもがその列に並んでいる光景をよく目にしました。
さらに、大学内のイベントやアンケート調査では、参加者への報酬としてスターバックスのアイスアメリカ―ノが提供されることも多く、コーヒーは身近なインセンティブとして機能しています。教授が授業で学生に出すクイズの景品として、コーヒーショップのクーポンが配られることも珍しくありません!
また、職場においてもコーヒーは不可欠です。ソウルのオフィス街を歩くと、多くの会社員がコーヒーカップを片手にしている姿が見られます。昼休みになると、ランチの後にカフェに立ち寄るのが定番であり、会社の法人カードを使って、新入社員が先輩たちのためにコーヒーを買ってくるシーンもよく見かけます。これは韓国ドラマでも定番のシーンです。
さらに、韓国の速い生活リズム、「パリパリ文化」にもコーヒーが強く関係しているようです。朝から晩まで忙しく働く韓国の人々にとって、コーヒーは単なる嗜好品というよりも、日常のエネルギー源として重要な存在となっています。勉強や仕事における集中力を高めるための必須アイテムであり、リフレッシュするための手軽な手段として、コーヒーは国民生活に欠かせない役割を果たしています。
まとめ
いかがでしたか。
韓国ではコーヒーが単なる飲み物ではなく、日常生活や社会の一部として非常に重要な役割を果たしています。特に、カフェ文化は多くの人々にとって憩いの場であり、友人や同僚とコミュニケーションを深める機会を提供しています。また、韓国人は忙しい現代社会の中で、コーヒーを効率的に取り入れることでリフレッシュし、仕事や勉強に集中することが多いです。
ぜひこちらの記事を通じて韓国の文化的背景への理解を深めていただき、韓国人材を採用する際の学生とのコミュニケーションにお役立てください。
参考文献
会社員1日2杯コーヒーを飲み、月12万ウォンを支出··· コーヒーを飲む理由は?
コーヒー消費量は世界平均の3倍 競争社会・韓国のカフェが提示する未来像 | 翼の王国