お酒で世代格差? 韓国の飲酒文化の変遷

新しい生活が始まり、歓迎会や送別会、仕事の打ち上げなどのお酒の場も増えてきました。食事とお酒を友人や同僚を囲んで楽しい時間を過ごす、いわゆる宴会文化は日本人には馴染みの文化ですが、近隣の韓国でも昔からお酒を介した交流の場が欠かせない文化として根付いているようです。

儒教的価値観から生まれた複雑なマナーをもつ韓国ですが、最近では、新しい世代を中心に変化の兆しが出てきています。伝統と新風の共存を目指す、今の韓国のお酒文化を追ってみましょう。

韓国の伝統的なお酒文化

お酒の席での「王道マナー」

韓国では、お酒の場でのマナーが細かく決まっており、昔から作法を重んじる文化が根付いています。中には日本では見られないような不思議な作法もあります。

最も基本的なマナーは、相手に背を向けて飲むことです。これは儒教的な礼節から来ており、目上の人に失礼のないよう気を付けるためです。また、お酒を受け取る際は両手で受け取ることが作法とされています。年上者へのお酒の注ぎ方にも作法があります。右手で酌を持ち、左手を酌の下に添えるのがマナーです。また、お酒の場では「焼酎何本(ボトル)まで飲めますか?」と飲酒量を確認し合うのも一般的です。

さらに、乾杯の作法も日本と異なります。日本では飲み始める前に一斉に乾杯をするのが一般的ですが、韓国では何回も乾杯を繰り返すのがマナーとされています。乾杯の音頭をこまめにとることで、場の雰囲気を切り替える効果もあるそうです!

꼰대(コンデ)文化とは

前述したように、儒教文化が色濃く残る韓国社会では、お酒の場でのルールやマナーが多く決められていました。年長者を重んじる風潮が強く、上下関係を非常に重視する傾向がありました。このような空気は、お酒の場にも漂っていました。先輩や上司から過剰な飲酒を求められることも少なくなく、実質的な「飲酒強要文化」が蔓延していたのが実情です。若手社員は逆らえずに従わざるを得ない状況が多々ありました。

そうした年長者主導の旧態依然とした考え方を揶揄する意味で、最近「꼰대(コンデ)文化」という言葉が生まれました。「꼰대(コンデ)」とは、年長者が若者に対し「俺の時代は〇〇だった」と過去の経験を持ち出し、それが絶対的な価値観であるかのように語る様子を指します。このように、韓国では近年、MZ世代を筆頭とした若者が古い慣習や文化に異を唱える動きが増えている印象です。

MZ世代が変えるお酒の楽しみ方

出典:MZ世代は何か違う…「お酒もウイスキーだけ飲みます」| 서울경제

韓国のお酒の楽しみ方も、時代と共に変化しています。特にMZ世代の嗜好が注目されています。

焼酎やビールはもう古い?!

しかし、最近のMZ世代(1980年から2004年生まれと呼ばれるミレニアル世代と1995年から2004年に出生者を意味するZ世代を合わせた造語)を中心に、お酒の嗜好や飲み方に変化が見られます。

上図のKPRデジタルコミュニケーション研究所が行った調査によると、MZ世代の49%がワインを、27%がウイスキーを好むと回答したという結果が報告されました。従来、韓国の酒類市場を代表していた焼酎やビールに代わり、ワインやウイスキーなどの洋酒を楽しむ人が増えました。好みに合わせて直接カクテルを楽しむ「ミクソロジー(Mixology)」というトレンドや、安いお酒を多く飲むよりも、お酒の味や素材にこだわり楽しく飲むという、MZ世代の持つ価値観が影響しているのかもしれません。

強制的な飲み会はNO!

出典:[PulmuoenはLOHASスタイル③]Pulmuoenの会食文化は進化中!#最近はこんな会食

↑某P社では、「夜9時以降の会食は原則禁止」など、社内に飲み会のルールを設けています。長時間拘束される会食を避け、プライベートな時間を確保しやすくする狙いがあります。

日本でも、最近は以前よりも飲み会への参加が自由になりました。韓国でも同じような動きが出てきています。実際、韓国の大手企業の中には、明示的に飲み会の参加や飲酒を義務付けないルールを設けている会社が出てきています。従業員同士の良好な人間関係を重視する流れから、このような動きが広がっているのです。

実際、コロナ禍を経て、個人の時間を大切にする意識が高まりました。「혼술(ホンスル・一人酒)」「홈술(ホムスル・家飲み)」といった新しい飲酒スタイルが流行る中、飲み会に付き合う必要性を感じなくなった人も多くいるのが実情です。

このように、従来の上意下達的な飲み会文化から脱却する動きが、企業側と個人の両面から出てきています。多様性や自由を重んじるMZ世代の価値観の広がりが、その背景にあると言えそうです。

世界に広がる韓国のお酒文化

K-POPやドラマなどで広まった韓流ブームに加え、最近では韓国料理の人気も後押ししており、韓国のお酒文化が世界的に広がりをみせています。

2021年時点で世界のソジュ(韓国の焼酎)市場規模は31億6150ドルで、そのうち約13%を韓国産のソジュが占めているそう。ソジュの代表銘柄「jinro」は、2021年に世界で最も売れた蒸留酒ブランドにもなっています。韓国の大手食品・酒類メーカーが積極的にソジュの海外展開を進めた結果とみられています。ソジュの高い度数(約18〜20%)と香り、そして価格の手頃さが海外での人気を後押ししています。焼肉店などで、韓国料理に合わせてソジュ(焼酎)が振る舞われるケースが一般的になってきました。

このように、韓国の伝統酒とお酒文化が世界に広まりをみせており、その愛好者を増やしつつあります。K-コンテンツ人気に後押しされながら、韓国の「食」文化全体が地球規模で浸透しつつある状況と言えそうです。

まとめ

いかがでしたか。
韓国のお酒文化は、伝統と新しい風とが入り交じる変革期を迎えています。伝統的なマナーや習慣は一部残しつつも、個々人の嗜好や価値観を尊重する新しい風潮が広がりつつあります。また、韓流ブームに乗って韓国のお酒や料理文化が世界に広がる中、昔ながらの価値観と新しい文化が共存するダイナミックな状況が現れています。これからも時代とともに変容を続ける韓国のお酒文化の行方には、多くの注目が集まるでしょう。

参考文献

MZ世代は何か違う…「お酒もウイスキーだけ飲みます」| 서울경제

韓国の飲酒文化に変化…「酔うよりも吟味」(1)

最近のMZ世代の飲酒文化 – Ring Career Community (linkareer.com)
[PulmuoenはLOHASスタイル③]Pulmuoenの会食文化は進化中!#最近はこんな会食

「サムギョプサルでお酒を飲む韓国文化を広める」 – 国民日報 (kmib.co.kr)

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