高学歴社会の韓国。教育熱や受験戦争の厳しさは日本以上とも言われ、大学修学能力試験(スヌン)は日本でもすでに有名ですが、そういった数々の試験の成績評価がどのように行われているか、ご存じの方は少ないのではないでしょうか。
今回は、韓国の成績評価制度を詳しく紹介していきます。また、韓国社会において、成績評価制度がどのような役割を果たしているかについても触れていきたいと思います。
韓国の成績評価の柱!「相対評価制度」
能力評価の方法としては大きく、相対評価制度と絶対評価制度があります。
まず、相対評価とは「属する組織や集団内でどのような順位にあるか」という相対的な位置をもとに、個人の能力に対する評価をおこなう方法です。一方の絶対評価とは、「集団内での順位にかかわらず、個人の能力に応じてそれぞれ評価する」という評価方法のことです。
日本では、高校の内申評価においては一部相対評価を取り入れていますが、それを除く大学入試や大学の成績、その他教育関連の場面では絶対評価に移り変わっているところがほとんどではないでしょうか。一方、韓国では、より公正的な評価のために大部分の分野で相対評価を積極的に取り入れる傾向があります。
偏差値ではなく等級制度~高校の成績評価制度
韓国では高校の成績にも相対評価が使われていますが、これは、大学入試にもそのまま反映されます。
日本では、高校受験や大学受験の際に模擬試験などを受け、自分の偏差値を把握した後、その偏差値を考慮しながら大学を決定するという方法がほとんどですが、韓国では、偏差値の代わりに「等級制度」により自分の学力のレベルを把握します。等級制度は、全体を割合ごとに上から順に1〜9等級に分ける評価制度です。
等級制度は主に大学修学能力試験、いわゆる「スヌン」の際に利用されます。スヌンは随時募集と定時募集に分けられますが、どちらにおいてもこの等級制度が用いられるということになります。
随時募集とは、日本でいう推薦入試に似たもので、学校の成績(内申点)を加味する入試方式になります。この際、成績評価として1〜9等級を用いることになるのですが、自分の等級を知るためには、その学校の学年の合計人数と科目ごとの自分の順位を把握する必要があります。
計算方法:(自分の科目別順位 / 学年全体の数)×100=自分の等級
例えば、学年総数が100人、自分の順位が30位だとすると、(30/100) ×100 = 30、つまり30%です。下の表は「高校内申等級計算基準表」です。この場合、上から4番目の累積比率~40%の部分=つまり4等級となるのです。
また、当日に受ける試験である定時募集においても、上の表と同じものを使って等級評価を行います。
※試験科目の中でも、相対評価と絶対評価のものがあります。相対評価の科目の等級は、上と同じ表を使って 算出されます。
随時募集と定時募集の割合は受験生によって変わるため、比重は人それぞれ変わってくるものの、大部分の受験生は自分の学校の成績と当日受けた定時試験の成績表に表示された等級を基に、自分の志願する大学を決めることになります。
日本の場合も、「偏差値」は相対評価をもとに作成されている部分においては韓国と核心部分は同一であるとみることができます。しかし、韓国の高校における大学入試は、⑴学校の成績に対する相対評価と⑵試験当日の成績に対する相対評価の2段階の厳しい相対評価を経なければならないため、すさまじい競争率であると断言できるでしょう。
大学に行っても相対評価?!大学の評価制度
教育評価制度の面において、日本と大きく違うのは、大学の成績評価において、韓国は絶対評価ではなく、相対評価制度を多く取り入れていることです。
韓国の大学に開設されているほとんどの成績評価は、韓国学士運用規定第57及び58条が示した成績等級・評価の基準により、相対評価が原則となっています。
ただし、一般的なガイドラインや正確な割合は学則によって少しずつ異なり、また教授の裁量によって単位を最大限の割合に合わせることも可能ではあります。
また、英語講義においては絶対評価であることが多く、相対評価といってもA、B上限がより高くなります。
近年、私立大学では絶対評価と相対評価を科目ごとに決定できるようになりましたが、それでもなお、相対評価の支持は堅く、特に国立大学や科学技術特性化大学においては公正な評価のため、相対評価を原則として使用しているようです。※参考文献参照
韓国学士運用規定 第57条(成績等級)、第58条(成績評価)
※ P、S、I評価については除外。等級の割合は講義の人数によって多少異なります。絶対評価の場合は各等級の割合に制限はありません。又、各大学は、学則規定として成績評価の方針をホームページに示しています。
下の写真は筆者が2年生の時の学期末成績表になります。上の表に記載されていた評価基準の通り、A、B、C、Dまでは上からA+ → A0 → A-のように順位付けされていることがわかります。
※(カッコ内)は日本語訳
社会に響く成績評価「成績インフレ」
高校時代、大学時代においても成績の争いが激しい韓国。韓国の大学では就職時に大学の成績を評価するため、この影響は企業側にも広がることになります。
2019年、韓国国内で「成績インフレ」という現象が起こり、話題になりました。コロナ渦によりオンライン授業が余儀なくされたため、当時韓国の大学は、学生側への配慮のために一時的に従来の相対評価制度を絶対評価制度へと切り替えました。その結果、好成績(A,B評価)の割合が増加することで、上位成績のインフレーションが起こってしまうことに。
これにより、成績評価制度における差別力がなくなり、公正性(厳正さ)が崩れることで、企業側から採用の際に学生の成績を信じられなくなってしまうとの声が多く上がることとなりました。
結果的に絶対評価制度が用いられた期間は1~2学期間のみで、その後すぐに相対評価制度への切り替えが行われました。新聞記事にも大きく取り扱われ、韓国では成績評価制度が持つ社会的影響力がとても大きいことがわかります。※参考文献参照
まとめ
いかがでしたでしょうか。相対評価制度が用いられている韓国では、全員が同じように努力したとしても、細かく順位がつけられます。韓国の学生たちは、熾烈な競争社会を生き抜いていることを改めて実感させられました。この記事を通じて、韓国の成績評価制度について理解を深めていただけたら嬉しいです。ぜひ、韓国人材の採用の際にご参考にして下さい。
(参考文献)