大学人気学科紹介② 未来を支える「契約学科」:半導体系工学科

第一弾でご紹介した「メディア学科」に続き、今回はシリーズ第二弾として韓国で急速に注目を集める「契約学科」にスポットライトを当て紹介します!学生にとってどれほどの魅力を持つのか、またその裏に潜む課題まで、紐解いていきます。

就職難の中、人気の高まる学科

4年制大学を卒業しても、就職率は60%台にとどまる韓国。韓国では4年制大学を卒業しても、就職率は60%台にとどまる厳しい現実があります。そのため、学生たちは卒業後に安定した職場を得られる学部・学科を選ぶ傾向が強く、以前から「医学・歯学・漢方医学・薬学(의치한약)」が圧倒的な人気を誇っていました。

これらの学科に入学することで、専門職としての将来がほぼ確定されるため、多くの学生がこれらの分野への進学を目指します。

しかし、最近新たに注目を集めているのが「契約学部」です。サムスン電子やLGなどの大手企業と提携し、卒業生の就職を保障するこの学科は、就職難の韓国で新たな人気を獲得しています。以下は、鐘路学院ハヌル教育が実施した年度別修学能力試験 有名契約学科の志願者倍率比較調査の資料です。表からも分かる通り、契約学科の志願者倍率は増加しており、高い人気を博している事が分かります。

契約学科って何?

ー契約学科とは

韓国教育部「契約学科運営マニュアル」による引用では、

契約学科とは、カスタマイズされた職業教育体制(Work to school)を大学の教育課程に導入し、産業体カスタマイズ型人材を養成したり(採用条件型)所属職員の再教育および職務能力向上(再教育型)のために、産業教育機関(大学)が国、地方自治団体又は産業体等と契約して設置・運営する学部・学科をいう。産業体の多様な人材需要に弾力的に対応するため、産学協力教育の一環として2003年に導入された。

とあります。

契約学科の最大の特徴は、入学した時点で就職が100%保証されているということです。

企業が大学と提携を組み、特殊学科を配置する代わりに、企業が学科運営費の50%以上を負担する条件で新設されます。

そのため、学生は企業から奨学金を受けることができる場合も多く、経済的負担が軽減されることが多いです。また、学生は在学中から企業のインターンシップに参加したり、企業の専門家から直接指導を受けたりする機会が豊富に提供されるため、卒業後の即戦力としての育成が強く意識されています。

ー日本の大学との違い

一方、日本では「共同研究」制度が一般的で、大学や研究機関と民間企業が共通の課題について共同で研究を行います。日本の大学では、民間企業が研究費を提供し、大学の研究者と企業の研究者が対等な立場で研究に取り組むことで、新たな技術や知識を生み出しています。韓国の契約学科と日本の共同研究の大きな違いは、韓国では大学教育の段階から企業が学生の養成に直接関与し、卒業後の就職先までをもサポートしている点です。日本の共同研究は、どちらかというと研究開発に重点が置かれ、大学教育と企業との連携は間接的なものが多いと言えます。

このように、日本と韓国の大学・企業連携の形態には、教育と研究のどちらに重点を置くか、産業界との連携の深さなどの違いが見られます。韓国の契約学科は、産業界で即戦力として働くことを視野に入れた教育モデルであり、日本の共同研究は学術研究を通じた産学連携を重視するモデルといえるでしょう。

契約学科:有名学科紹介

ここでは、韓国で有名な契約学科をいくつか紹介します。

ー半導体システム工学科(サムスン電子):成均館大学

2006年に設立され、「契約学科」のパイオニア的存在の学科です。
サムスン電子と提携しており、半導体分野の専門知識を持つ人材を養成しています。実践的な実習やプロジェクトも多く、サムスン電子の工場でのインターンシップなど、企業との密接な連携が強みです。

モバイル学科(サムスン電子):慶北大学

「モバイル」という名を冠する契約学科で、成均館大学の半導体システム工学科と並ぶ歴史を持つ学科です。モバイル通信、無線技術、スマートデバイス開発などに重点を置いたカリキュラムを提供しています。サムスン電子の新製品開発に関わる機会、海外インターンシップへの参加等、理論だけでなく、モバイルデバイスの設計や開発に関する実践的な教育も行われています。

ディスプレイ融合工学科(LGディスプレイ):延世大学

延世大学の契約学科で、LGディスプレイと提携しています。ディスプレイ技術に特化したカリキュラムを提供し、OLEDやLCDなどの次世代ディスプレイ技術に対応できる人材の育成を目指しています。2023年に新設された学科であるため、LGディスプレイの最新技術やトレンドに触れる機会が多く、最先端の研究開発に携われるのが特徴です。

半導体工学科(SKハイニクス):高麗大学

SKハイニクスと提携し、半導体分野のエンジニアを育成する学科です。新素材工学、電気電子工学、システムおよびソフトウェア工学の半導体分野が融合した教育過程をもち、最近はコンピュータシステムまで分野を広げました。SKハイニクス社インターンシップへの参加や、シリコンバレー見学体験など 様々な学びの機会が提供されています。

契約学科が抱える問題・懸念点

契約学科は大手企業への就職が保障されるという点で人気を集めていますが、いくつかの問題や懸念点も抱えています。

まず、就職が保障されているからといって、すべての学生がその企業で長期間働き続けるわけではないという点です。就職後、福利厚生や企業文化が合わないと感じる学生もおり、離職するケースも見られます。また、入学時には企業への就職を希望していたものの、学習を進めるうちに自身のキャリアに対する考え方が変わり、契約企業への就職を望まなくなる場合もあります。

さらに、契約学科に通う学生の中には、親や周囲の影響で学科を選んだケースもあり、自身の興味や適性と異なる分野で学ぶことへの悩みを抱えることもあります。このような状況は、学生のモチベーション低下や学業成績への影響を引き起こす可能性があります。

また、企業のニーズに合わせた教育が中心となるため、教育内容が画一化され、学生の柔軟な思考力や多様なスキルの習得が制約される懸念も指摘されています。

このように、契約学科は企業との連携を通じて学生に多くのメリットを提供していますが、一方で、学生の個別ニーズやキャリア選択の自由を制約するリスクも存在しています。今後、契約学科が抱えるこれらの課題にどのように対応し、学生の多様なニーズに応える教育モデルを構築していくかが重要になるでしょう。

まとめ

いかがでしたか?半導体産業が急速に成長する韓国では、「契約学科」が注目を集め、優秀な人材を輩出しています。これらの学生たちは韓国企業への就職を視野に入れているものの、就活のトレンドや背景を見てみると、韓国では半導体産業をはじめとする先端技術分野で即戦力となる人材が多く育っていることがうかがえます。

韓国人材の採用を検討する際には、各学生が持つ専門性やスキルに注目することで、新たな可能性を見出すことができるでしょう。ぜひ、韓国人材採用のトレンド分析にお役立てください。

参考文献

共同研究について | 研究・産学官連携・社会貢献 | 名古屋市立大学

中小企業の採用条件型契約学科を運営している慶尚南道晋州所在のA大学は最近、悩みが多い。 この学校の関係者は「私たちが運営している学科と関連した企業がどうしても零細なので、学生たちが就職しようとしない」.. – MK

大手企業への就職が保障されるのに…韓国の大学「半導体学科」合格者が続々と入学放棄

キャリア – 雇用が行われ、転職が行われる (career.co.kr)

「薬学部の代わりに半導体科に行こうか?」就職保障 契約学科の上限値に「悩み」、なぜ | 韓国日報

三星と成均館大学がバッテリー学科を新設、2026年から10年間30人ずつ選抜 | 東亜日報

韓国の半導体人材10万人育成方針に教育界が異論、画一化への懸念