毎年話題となる「ベストセラー書籍」。日本では近年、韓国人著者による小説やエッセイが、ベストセラー書籍としてランキング上位になることは少なくありません。今回は、韓国のベストセラーを年度別にピックアップして紹介するとともに、その変遷から韓国社会の変化や若者の考え方の変化など紹介していきます。
2010年代~2020年代の韓国ベストセラー
まず、2010年代始めのベストセラーを見てみましょう。2011年、ベストセラー1位となった本は、キム・ナンド教授著書の『辛いから青春だ』です。キム・ナンド教授が様々な媒体に寄稿した文など計42本のメッセージを一冊にまとめてあり、未来に対する不安で疲れてしまっている20〜30代を慰める言葉が人気となり、200万部を超えるベストセラーになりました。共感できるアドバイスが良いとの論評がある一方で、社会構造的な問題を個人的な次元にし、個人の努力や成長を強調している、との見方もあるようです。
次に、2010年代後半のベストセラーは2018年において韓国の書店の主人公は「くまのプーさん」でした。
2018年の1位となったエッセイ『くまのプーさん、幸せなことは毎日ある』は、プーさんのアニメの内容を加工したものとなっており、プーさんのイラストと共に慰めと励ましのメッセージが綴られています。この年は、この本以外にも『すべての瞬間が君だった』(2位)、「無礼な人たちに笑って対処する方法』(3位)、『私は私として生きることにした』(5位)、『言語の温度』(6位)、『死にたいけどトッポギは食べたい』(7位)といった、読者がジーンとなるような慰めのメッセージを伝えるエッセイが多くランクインしました。
次に、2022年と2023年のベストセラーを見てみます。2023年は2022年に比べて自己啓発本が多くなっています。2023年は総合上位の3冊全てが自己啓発本でした。総合100位圏内を見ても、2022年は12作品だったものが2023年は15作品含まれており、しばらく低迷していた自己啓発分野の人気が目立った年だったようです。
ベストセラー書籍の変遷から見る韓国社会の変化(n放世代、スペック主義)
ベストセラーを見てみると、年度別に人気の本のジャンルが変わっていることがわかります。ある記事によれば、『つらいから青春だ』がベストセラーとなった2011年ごろは「一生懸命頑張れ」「努力しないと何事も成し得ない」というような風潮があったものの、2018年あたりから「自分らしく生きる」「他人の為に頑張りすぎない」といった価値観が拡がっていったといいます。
また、2010年代には「n放世代」という言葉が誕生しました。n放世代とは、韓国の青年世代を指す流行語で、「すべて」を表す不定数の「N」に、「あきらめる」という韓国語の頭文字である「放」を合成した言葉です。厳しい経済状況のため、すべてをあきらめて生きる世代という意味で使われました。このような厳しい状況の中で、一流企業に入ることが人生の正解であり、スペックを高めるのに必死だった若者の間で、一生懸命生きてスペックを高める!!という強い意識から、そういった環境の中でも自分らしく生きる、頑張り過ぎないという自分を大切にする風潮が大きくなっていったのではと考えられます。
日韓、お互いで起こる書籍ブーム
ここまで、韓国のベストセラーについて述べてきましたが、日韓双方で書籍ブームが起きていることはご存知でしょうか。最初に少し触れたように、日本の書店で、以前より韓国の小説やエッセイを見かけることが多くなっているようです。
実際、韓国でも人気となった『私は私のままで生きることにした』は日本で55万部(2023年4月時点)を売り上げるなど、高い人気を誇っています。韓国の本が日本で人気となった理由については様々な要因が考えられますが、理由の一つに、それらがK-POPアーティストの愛読書だったことが挙げられるといいます。『私は私のままで生きることにした』はBTS(防弾少年団)のジョングクの愛読書として、日本での発売前から話題となっていたそうです。また、『あやうく一生懸命生きるところだった』という人気エッセイも、東方神起のユンホが読んだ本としてファンの間で有名だったようです。日本における韓流人気や、SNSでの共有を視野に入れたマーケティングに力を入れたことも相まって、日本で韓国エッセイ人気が起こったのだと思われます。
一方、韓国では、日本の小説が大人気です。韓国最大の書店チェーン「教保(キョボ)文庫」が発表した2023年上半期ベストセラーランキング小説部門では、上位30作品のうち8作を日本の小説が占めました。なかでも村上春樹さんと東野圭吾さんの人気が高いそうですが、共通して『ヒーリング小説』と呼ばれるジャンルが人気を集めているようです。『ヒーリング小説』は、どんなジャンルであれ、現代人が簡単に表に出せない寂しさをゆっくり癒やすような作品を指します。些細な日常が温かい目線で描かれていて、『疲れた自分を慰めてくれる』と若者を中心に評価されています。日々、競争社会で奮闘している韓国の読者は、本を通じて日常の慰めを求める傾向にあるのかもしれません。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ベストセラーの変遷を見ることによって、時代による風潮や、若者が持つ価値観などが見えてくるような印象を受けました。また、イエスジャパン現象などでよく取り上げられる日本のアニメや音楽の他に、日本の書籍も韓国で人気だということが分かりました。韓国の社会や若者について理解する際に参考になりますと幸いです。
【参考文献】
すべてを諦めて生きる「N放世代」。韓国の青年たちの過酷な生活に迫る(金 敬哲) | 現代新書
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