国土面積が全世界の0.29%しかない日本ですが、全世界で起こったマグニチュード6以上の地震の18.5%が日本で起こり、全世界の災害で受けた被害金額の17.5%が日本の被害金額となっています(総務省統計局の世界の統計2022)。このような自然災害の対策には、日本人だけでなく色んなバックグランドを持った外国人に対しても行っていくことが重要だと考えられますが、日本の企業はどのような対策をしているのでしょうか。今回は、韓国人が持つ防災意識に触れながら、対策事例などについても紹介していきます。
韓国の自然災害
(出典:NHK ソウル市浸水予測システム)
韓国での自然災害被害は、暴風雨や台風等の風水害による被害が多く、日本と比べて地震による被害が少ないのが特徴です。2016年の中央日報の報道によれば、当時の韓国地質資源研究院のチ・ホンチョル地震研究センター長が、韓半島での大地震の可能性を低く評価しています。ただし、被害を起こす地震は少ないものの、年間平均46回の中小規模地震が発生しており、その中マグニチュード3以上の地震は10回程度です。水災害においては、2022年の8月に、大雨で半地下住宅の一家3人が亡くなるなど大きな被害が出ています。浸水被害を防ぐために止水版を無料で設置したり、浸水予測システムを開発するなど、対策を進めています。
空襲に備えた防災訓練
(聯合ニュースより)
韓国では「民防衛訓練」という訓練が行われています。これは一般国民が参加する訓練であり、空襲に備えた避難訓練「民防空訓練」と、地震や火災などの災害に備えた避難訓練に分かれているそうです。
「民防空訓練」は、直近では2023年8月に行われ、これは2017年以来6年ぶりの実施でした。訓練の流れとしては、まず訓練用の空襲警報が鳴り、警報発令後は近くの地下退避所など安全な場所に避難、警戒警報に切り替われば、外に出て警戒態勢を維持しつつ移動することができるそうです。その後、警報解除で訓練は終了です。民防避難所はマンションの地下、地下鉄駅、地下ショッピングモールなどに1万7千箇所以上指定されています。交通規制は15分間、全国216か所で行われ、ソウルでは世宗大路、国会大路、東一路の3カ所で交通が規制されました。訓練区間を走行中の車両は、道路の右側に停車した後、車内でラジオを聴きながら案内放送に従って行動する必要があります。このように、韓国では国が主体となって、一般国民が空襲に備える避難訓練が行われており、これは日本とは違った防災訓練と言えるでしょう。
日本企業の防災対策
日本の企業はリスクマネジメントとしてBCM:Business Continuity Management(事業継続マネジメント)、BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)などが行われており、これらは内閣府のガイドラインにその考え方が示されています。
BCM/BCPは、「あらゆるリスクに対して重要事業を守る」という事業中心の考え方をベースにしています。このような「事業自体の存続」を目的とするBCP/BCMに対して、「従業員の心身の安全性確保」のための「避難経路の策定、応急対応」など、人命確保を主な目的としている「企業防災」も存在します。
ー防災・BCP対策をしている企業の事例
・大手生命保険会社
ある大手生命保険会社では、社内で大規模災害に特化した防災訓練を定期的に実施しているそうです。この訓練の特徴は、シナリオを事前に提示せずに行う点です。あえてシナリオを提示しないことでリアリティの増強と有事の危機管理能力向上を目指しているそうです。
・大手企業工場
実際、工場近くの山の噴火によって周辺の道路封鎖や工場への火山灰進入といった被害を経験しているこの工場は、この経験を糧としてBCPを一段階向上させ、政府発表の噴火警戒レベルに応じた細かな対応ルールを構築したそうです。また噴火災害は影響が長期化する傾向があるため、火山灰を回収するための重機の調達や、工場建屋への粉塵侵入防止対策などを行っています。
外国人人材への対応
日本で頻発している地震や台風に対して、自国であまり経験していない外国人はどのような対策や対応が求められるのでしょうか。実際に災害に直面した際、「ちいきのなかに 防災ニッポン+」によれば以下のようなトラブルが想定されるそうです。
ー想定されるトラブル
・慣れていない事態にパニックになる
世界で起こるマグニチュード6以上の地震のうち、およそ2割が日本で発生しているともいわれるほど、日本は地震が多い国です。風水害や地震がほとんど発生しない国・地域の人は、日本人が恐怖を感じないレベルの揺れであっても、恐怖を感じることがあるでしょう。韓国でも地震はあまり起こらないので、地震に慣れていない韓国人が多いと考えられます。
・自力で必要な情報を収集できない
日本人でも混乱してしまう災害時には、外国人は情報収集に苦労することが推測されます。ただでさえ外国人にとって難解と言われている日本語ですが、災害時はスマートフォンが繋がらないなど、自社スタッフとの連絡をとるのも難しくなるかもしれません。連絡が取れなくなるような状況を回避するためにも、企業側は万一に備えて外国人向けの災害対策をすることが重要であると言えるでしょう。
・避難所生活により、出勤できるまで時間がかかってしまう
仮に避難所で生活するとなった場合、外国人の場合は日本人以上に困ることが沢山出てくると想定されます。文化や宗教、習慣などの違いから避難所での集団生活がうまくいかないこともあるでしょう。また、生活再建をするにあたっては、行政や保険会社での手続きをはじめ、住まいの片付けや買い物などに追われることになり、なかなか出勤を再開できないという事態もありうるそうです。
ー外国人材を守るための防災対策
・外国人従業員向けの防災研修と避難訓練を実施する
従業員向けに防災講習を行う際に、外国人従業員にも一緒に災害の特徴や身の守り方について学ぶ機会を作ると良いようです。訓練で自分の身を守る行動に加えて、消化や救助・救護などの初動対応ができるようになればなお良いと思われます。
・外国人従業員に職場の避難経路を覚えてもらう
職場が津波などの浸水予想区域にある場合、速やかに安全な場所に避難できるようにしておくことも必要だそうです。特に、従業員に職場周辺の土地勘がほとんどない場合、実際に避難ルートを歩いてみるなど、丁寧な対応をすると良いようです。
まとめ
いかがだったでしょうか。韓国の防災意識や、訓練のやり方を知ったうえで、非常時の動き方について一緒に考えていけると、さらにお互いに理解を深められて良いと思います。ぜひ参考にしてみてください。
参考文献
災害やリスク全般への備えに、人事はどう関わるか? BCP・BCMの実践
企業防災の取り組み事例や対策とは?災害防災対策に法人で行うべきことを紹介
空襲に備える「民防衛訓練」 全国できょう午後実施=韓国 | 聯合ニュース